蜜蜂採りは詩人である 

山の奥深く 

梢も高く 

地衣を這い上がっては幹の洞を探す
 
海に潜る人は詩人である 

月の満ちた日に 

サンゴのこれでもかといふ 

産卵を見る 

たらい舟をゆらして 

ゆらゆらと 

海から浮かびあがって来ると 

喉の笛がひゅうと鳴る
 
番小屋には長いおしゃべりが続く 

たとへば、知床では 

夏休みに子供たちが 

さかんに昆布を浜辺の石の上に敷き広げるのを手伝ふ 

夜の夜更けに 

天からおりてくる 

しずしずとした露の 

裸電球の照らす 

一人ぽっちの静けさの中で、昆布の湿り具合を確かめる 

朝のまだきに 

すぐそばにヒグマの親子が散歩していたりして 

それらはまたなんと詩的な風景なんだらう

 

 親から子へといふ 

それらも詩的だ 

牛の小屋に糞を集める
牛の小屋に燻皮 ふすべ の紐をひく 

とうちゃん大丈夫かいと 

中学生が声をかける 

牛の眼だ 

牛のおっぱいだ
何よりも父と子の黙 もだ す会話の 

牛小屋の梁の下の 

やりとり

 藁の匂ひの

 
まひまひは奇跡だ 

高原のすべてのレタスに落ちる 

朝のつめたく冷へた空気の 

寝ぼけた瞼に気持ちよく 

中国の奥地から来てくれたばっかり娘さんたち 

さっくりと根元に鎌を入れれば 

天と地の透明な雫があふれる 

思はず笑みがこぼれると 

ついでに緑のしゃきっとした葉っぱから 

ちいさひ、ちいさひまひまひがこぼれ落ちた 

すぐにお日様が 

この蒼穹のうへに上がってくるだらう 

 

死者がやってくるといふから 

死者がたずねてくると云ふから 

森のはずれに 

人とけもののさかひに
さなちひさな小屋を建てた 

何世紀かまへの母を待つために 

夜になると
青い光りが曳航 えいこう し 

たちまちすぐのそのさかひに 

さかひを目指して 

ひしめき合うほどの精霊のざわめき立つのを感じる 

気が付くと 

木のほんのテーブルの向うに 

ちょこんと小さな姿があって 

街に連れて行かうとしたら 

すぐに消えた
 
人は隠者のやうに棲み、 

賢者のやうに一人歩め。

 

高い高い山の上で糸を曳く人は詩人である 

マニ車はまはる 

いともたやすく人の運命を乗せて 

色とりどりに糸の五色に 

石を集めて死者の肉を叩く 

礫を骨に 

髄を敷石の大きに広げる 

すぐにどこからともなく 

大空のただの一点から 

遣わされた大鳥の 

羽音も激しく石の上に 

死者のうへに舞い降りると 

きれいさっぱり 

血の一滴までも平らげてくれた 

あとはあの蒼穹に悠々と還る 

弧を描き 

蒼い巌峰のかなたに 

もはや、 

死者に対しては手を合はせるしかないではないか

 
アンドロメダ銀河 

見たこともない何億光年の 

太陽系がほんのかすかに身震いする 

さうだ、そのまへに 

自分自身が星のやうに 

また、真っ白になって 

光りの粒子となって 

この暗い涯てしもない宇宙に 

内心で散ってしまへばいいのだ 

マグネシウムの鋭い眩しい閃光を残し 

(15,1,7日経)ハッブル宇宙望遠鏡が昨年9月に撮影した「わし星雲」の新たな可視光画像(NASAなど提供)=共同。柱を構成するガス状物質が、星々が放射するエネルギーによって絶えず蒸発していることも判明。約20年前の撮影に関わった研究者は「何とはかない存在なのだろう」と感嘆している。

 

2018,7/13

『哀喪「3.11」災後物語』(下巻)

倉石智證