あっちの方がしーんとしてゐるではないか
雨の糸がしんしんと畑の緑に吸い込まれてゆくではないか
壁の外側がシーンとしているではないか
みんな息をひそめて
この雨が通り過ぎて行ってくれるのを待ってゐる
堰野川は葦を押し倒して茶色に濁って勢いを増してゐる
選果場ではおじさんが手持無沙汰に屋外のヤードを眺めてゐる
みーぃーんな閑になって
無沙汰が手持ちになって
雨の音と燕がかすかに鳴く声を聞いてゐるばかりになる
こっちの方もシーンとしているではないか
ばーさんが耐え切れずにうろうろし始める
妻は虫虫が出ると、厨房の掃除を始めた
電線にツバメが留まってゐる
黙ったまま糞をするではないか
平和ではないか
首を回し、にこりともせずに雨に濡れてゐる
畑のあちこちに見る間に水たまりが出来てゆく
あっちの方がシーンとしているではない
ぼぼぼぼぼほほほウん、つんぼはやだね
と思ったところで
ツバメが身を震わせて電線を飛び去った
一面に緑の葡萄樹
倉石智證



