連れて逃げてよ

この野菜畑を

きっとあんたのいいひとになるから

馴染んだこの土塊をほろほろと手の間に零し

採れた茄子や胡瓜もみんなあんたに上げる

連れて逃げてよ

けふは蝶々が庭に闖入して来たから

きっといいことがある

それは魔法のやうな

説明のつかない時間のやうなもので

両の掌の中に入れて

そっと空へと逃がす

連れて逃げてよ

この野菜畑を

南瓜の蔓は石垣の方を目指して

いつかちっちゃな南瓜の玉を黄色い花の下に結ぶ

みんなみんな、連れて逃げてよ

けふあることが、明日もあるわけではないから

笑ってばかりではゐられない

不思議ご褒美

でも、私の掌にあるものがもう分からない

なすびを取って来たものを

それは小っちゃいだもんどと叱られた

そんなことも、もう分からない

わたしの大好きな畑の

連れて逃げてよわたしを

わたしがどんどん私にほころびてゆくから

まだひょっとして確かなうちに

わたしを連れて逃げて

わたしの大好きな野菜畑に

もうきっと忘れたままにはしませんから

 

倉石智證