どうしても、と云ふからさうしたんだ

十薬の乳色のにほひにむせかへる

どうしても、と云ふから

いやだいやだ

引き返した

緑陰が一気に翳を濃くして

そんなところに蝶々が舞ふ

一体どんな意味なんだらうと

窓を開けて覗き見る

カーテンがさらさらと風に引きさらわれた

蝶々は部屋に入って来るのだらうか

無心に、そして音もなく訪れ

凝っと壁際に佇ってゐると云ふやうな

 

──なにか声に出して喋ってくれたまへ

と云ふやうな

静かだ

それが景色全般を不安に居心地悪くさせて

蝶々と緑陰といまでは絨毯のやうに広がる十薬の花の

卒業子、幾人かの女学生たちの

水無月祓

水の底から乳色の思ひばかりが空へと漂ひ出て

しずしずと坂を上がって来てやっとそこへとたどり着く

 

薄物の、まだ恋をするまへの

さざめき

さんざめき、遅刻することを咎められて

どんみりと攫われてゆく

教科書をひろげ、

その上に顔のなゐわたしが眠る、

と云ふやうな

昼下がりの

目の前の成女学園の講堂は蔦の緑の葉にびっしりと覆われてしまった。

 

倉石智證