(19,5/31朝日新聞)

259匹、5000万年前「めだかの学校」

米西部で見つかった小さな魚が群れをなして泳ぐ様子の化石

=城西大水田記念博物館大石化石ギャラリーの宮田真也学芸員撮影

 

オイ親分て声をかけるが水槽のナマズは物憂さうだ

自分はいつからここにゐるのだらう

ときたま目ん玉をきろきろッて動かすが

それは世間を見るためではないっていうことは分かってゐる

 

水垢が背に懸かりとほい昔を思ひ出す

だれだ、だれだ、昼寝をじゃまするのは

裸の子供の足がにゅっと水のなかに入って来る

ジャブジャブとずいぶん乱暴に用水路に足を踏み鳴らし

わたしもうっかりと子供の仕掛けたボテに掬い込まれた

あわててボテ笊のなかでぴょんぴょん跳ねる

こ汗を掻いた薄汚れた顔がワッとのぞき込み

にっと笑ふ

大きな青空に雲がゆれた

小っちゃな子なまずは水路に返され

わたしはバケツに放り込まれた

 

わたしに聞こえない音は世間にも聞こえないのだ

わたしに見えない世間は世間にも見えてゐない

時たま動かす髭だけがわたしには頼りだ

そのやうにして…でも子供の成長は早く

わたしだけが水槽に取り残された

水垢が時間のやうにわたしの背中に降り積もって来る

 

オイ親分、オイ親分ってなれなれしく気安く呼ぶな。

ナマズはナマズ、メダカではなし。

 

倉石智證

『天声人語』19,5/17

〈水槽のナマズは動くこともなく居残る生徒が笑いだしたり〉

〈男らがビニールハウスに集まりてファレノプシスの花と受精す〉胡蝶蘭

〈一モルの酸素を吸えば満たされて我も大気の一部と思う〉

花や果物の品種開発などバイオサイエンスの分野が特に人気だという。

〈烏(からす)より黒き和牛が売られゆく生徒の群れに手を振られつつ〉

〈植え込みのまばらに枯れたツゲの木と劣等生に親しみを持つ〉

生物工学が専門の教諭森垣岳(たけし)。兵庫県立農業高校(加古川市)