/花毟むしる夫婦めおとでありし老ひしまゝ

紅李の花片をスモモの受粉用にと毟る(採取)。

お百姓はすべて天の運行にその作業は組み込まれているかのやうだ。

/春韮や昼天ぷらでありしかど

/野良坊菜そんなばか菜と畑の端

/一品を野良坊菜と云ふ春の宴

/山の端に春の坊主のぬっと出て

/我が影の影を離るゝ春の翳

/初蝶を土蔵の影で見しと云ふ

/影消へて村を出てゆく春の道

/雪柳白き炎叢ほむらの地を奔り

中央道上り小仏トンネル手前の山際に帯状にしばらく続く。

/アッサリと春は貝だとうっちゃられ

/チコちゃんを見ているうちに莫迦になり

/痛くしないでねと花粉デンタルクリニック

/老人にひねもす春ののたりかな

/春昼や噂話も田舎めき

/老人おひひとの掛け合ひに暮れゆきぬ

/ばーさんに春剥落の続きをり

甥が連れてきた玄孫やしゃごを抱っこしたのを覚えていない。

じ様の3回忌を覚えていない。

夕べのカジキマグロのムニエルも、

お箸を止めて真剣に見ていたはずの「プレバト」も、

けふのお昼の天ぷら饂飩も、

みな瞬時に彼女の忘却の彼方に消え去ってゆく。

 

倉石智證