彼女は思い切り泣きたいがため隣の部屋に駆け込んだ
泣くことを誰かに見られたくはなかったからだ
タクラマカン砂漠出て
両の腕の間に滾々と大きくなってくる満月を入れる
猪八戒はいい奴だよ
と、急に女に変身して
艶冶えんやと笑ひ
腰をくねらせた
そんなことはいったい何に役に立つと云ふのだらう
アリスは部屋に泣くことを止めた
次に出てゆくときは必ず床がパカンと空いた時だらうと
床から深く地の空間に落ちてゆきながら空を見る
もはや満月は宙に耿耿と浮かんでゐる
一瞬満月をおおきく両の腕に抱きかかえやうとして
彼女は思い切り泣きたいがために隣の部屋に駆け込んだ
しかし、誰しもに泣くに泣けない事情と云ふものもある
猪八戒は猪八戒、アリスもアリスだ
かうしてぐるぐる回る部屋が
目の前の自分の尻尾を食べる
と云ふやうな
遠慮のないことが続いた
倉石智證