どこやらに声の聞こへる寒むさ来て
家がかすかに軋む音を立て───
寒さ極まる
ば様は歌ひ始めるのだ
ほそぼそとかよわく
夕焼けに美しく
美しくゆやけにのせて
昔語りを
よせよせ座敷に座って
むかしの古いアルバムに見入るのは
思い出は茜色になって座敷に満たされてくる
たうたらりと乞う乞うと
死者を呼び寄せ
肩口のあたりに囁きかはす
仲良くなって、いまではあたりまへになって
たうたらりとエーテルのやうになって
衾の間からまた梁の下へと
なんとも
「なんもでんやうになっちまっったからわたしは」と
おぼこに座って
座ったままに長いことあかず
それでたうたう口唇を出て
頼りなげにしかも美しい声で
乞う乞うと歌い始めるのだ
たれかそのかみの昔話をいまでは知るひとがあらうか
有線放送が突然、行くへ不明者の名前を告げる
しをん、しをん、しんしんと甲高く
村を縦断して
雪や乞う乞う
雪花かと思ったものがすぐに小雪になった
倉石智證
