パンが焼き上がった。
夢をみる人の額には時の塵が音もなく降りつみ
天井裏のさらに上の屋根のずーっと上には
星月夜が瞬く
太郎の上に雪降りつみ
次郎の上に雪降りつみ
そんな風にしてきっと
母は子供を眠らせ
戸締りをして来たんだ
山の上の方ではフクロウが鳴く
雪兎が眼を瞑り
いまかと
ぱたんと後ろ足で地面を蹴る
すると眠りはさらに深くなり
厳格な父親の相貌を目の当たりに忘れさせる
母はまあるくなった膝の上に手を置き
安心しなさい
太郎の上に雪降りつみ
次郎の上に雪降りつみ
つぶやきはまたひとつの形骸になって
梁の下にはらはらと散り始め
時の躯むくろはしろくしろく
夜の底に降り積もる
不意と、厳格な父親が立ち上がる
厳しい影に
母親はまさに膝をまるくして畏れ
人差し指を立てて
分け隔てられることの前にと
だがそこで過去がぷっつりと切られる音がする
右の蟀谷こめかみの上だ
パンが焼き上がった。
フクロウが飛び立ち、
兎の姿は雪原から消えた。
倉石智證
