空に向かって来よ来よ

と云ふ

金の黄葉ふるふる

赫の紅葉ふるふる

かさこそと音がする

かそけく、

かはたそ。

あれはなに、と聞く

 

葡萄畑の棚下に

果樹の木の下に

落葉が敷きつめられていって

振り返るとかさこそと

ため息のごとくに

振り返ると地に落ちてゆく

あれはなに、

と老人は猜疑に昏くらむ視線を投げやる

秘密めかして

まるで何事かと

 

風もなく、陽のきれいな日に

婆は庭先に出て

来よ来よと云ふ

不意に驚いたやうに両手を差し出し

たきぎが山腹に落とされるさみしい音を聞く

振り返るたびにそこここにかさこそと音がする

枝先からたった今離れて

くるくるとはらはらと

 

あれはなに、とば様は聞く

金の黄葉ふるふる

赫の紅葉ふるふる

雪虫が軒端に浮遊し始め

すぐに別な季節がやって来る

一斉に

まるで内緒話ででもあるかのやうに

かさこそとかそけく

かはたそ

あっちこちから軽い笑い声さへ立ち上がる

 

倉石智證

「彼は誰ぞ」=かはたそ