あの月を取ってくりりょと

いろは紅葉に浮かんで出たよ

昼の月だよ

心砕けて呑気なもんだね

人様のことなんか

ましてや地上のことなんかさっぱり気にも留めない

ばあさんが浮足立っても

じいさんがぽっくり逝っても

だれかが居留守になっても

あるいはほんたうに留守になっても

古びてお寺の瓦が落ちかかっても

柿が静かに知らないうちに熟して来ても

そんなことなどみんな知らない

 

あゝ、月が浮かんで出たよ

白い白い半月の月だよ

さっそく誰かに知らせてやらうと庭先に下りたけれど

なんだ、そのだれかがたれもわからない

あの月だよ、昼の月だよ

取ってくりりょと

背中にずっしりと

重たい

叱られて子供のお守り

コンと鳴く村はずれに

みんな優しく知らぬ気に押し黙りあって

 

あゝ、月に歌があれば

あゝ、空にも歌があって

空にもし歌があるのならば

きっと雲にも歌があって

みんな全部が見事に地の上に浮かび上がって

浮かんでゐる、

浮かんでゐる

呑気に、

いい気なもんだ

ぷかぷかと、ぷわぷわと

月はとりわきて昼に白く

昼の月、これは

天への誘ひ

 

倉石智證