「指のすること」

そんなこと云ったってそれは指のすることだから

わたしは頭にいつものやうにゐます

指のすることも足のことも今は分かりません

そんなこと云ったって指はうれしくて仕方がないのでせう

もう頭の云ふことなんか聞きっこない

指は股潜りして

また覗きして

うれしくてタップタップする

どうしてそんな大胆な冒険ができるのでせうか

あなたの口の中に指を押し込める

一本、二本、三本…

すると赤ちゃんの口のやうになって

涎だらけになるのです

 

「占守島しむしゅとうの戦い」

折角だから秋に飛び乗って、

オホーツクまでの切符を一枚ちょーだい。

彼がこちらに向かって歩いて来るのは、

きっと何か用事があるからでせう。

だから彼はあんなにさみしさうな顔をしてゐる。

昔カムチャッカの方まで行って大勢の人が戦って死にましたよ。

 

「古代王のこと」

そこに誰かを探しに行ってはならない

仮にさうだとしても誰かを探しに行ったりしてはいけない

船で出かける

森で木に縄を打ち付ける

わたしは誰からも選ばれた王だ

金の冠を被る

わたしは壁を背に

わたしに肉の溶けた躰に

千年も万年も茫洋と風が吹いてゐる

 

「生贄」

伊達男が唄うよ

やはり帽子を斜めに被って

日が大分天を渡ったころ

木陰で、女や子供を集めて歌う

サンタマリア

血の歌だよ

正義ばかりでなく堕落も

すこぶるのこと夜は昼の6分の1にもなった

女は肩も露わに着飾って石組みの宮殿を歩いて行った

心ときめかせる

なにしろ、いつかは生贄が必要になる

内心内心とか何とか云ってゐる内に

とうとう朝になってしまった

 

倉石智證