1952国吉康雄が亡くなる前年に描いた「ミスター・エース」

(1952年、油彩、カンバス、117×67センチ、福武コレクション)

 

むかしの土蔵の土の厚さよ(農本主義として)

それがわたしにきっと重いのだよ

 

そこにゐるのはたれか ? 

扉に倚りかかり

次の私が小暗い顔で今の私を見つめてゐる

秋になれば、梨の形をした三つの小品

まるで手品でもあるまいし

壁の向かうのさみしいピエロを呼ぶ

あなたはお客様だから

わたしがおもてなしをする

だからあなたは精々大盤振る舞いをしなさい

 

夜が更けてゆくにしたがって

諸所の形あるものたちは陰影を深くする

まるでそれが悩みででもあるかのやうに

ことわりにわりを喰ふことわりに断りなしに

エピロはふんぞり返りピエロを断罪する

三つの梨の形をした小品はピアノの前にのせてあり

今かとそしてパーティーが始まるのを固唾をのんで待ってゐる

そしてシキボウが振られるとき

何かが破裂するのだ

 

感情があらゆるところからせめぎ合い

押し合い圧し合いして

たへ切れずにだれかがうっくんうっくんと涙する

大団円になる前、

ようやく、見たこともない次なるわたしが

扉から離れてこちらにやって来る

彼と呼ぶしかない私は

にやにや笑ってわたしの前を通り過ぎる

 

倉石智證