今在る話ではない

もうその話は何回も聞いたよ

いや、何十回も聞いたよ

 

義兄が味噌っ歯を出して笑ってゐる

正直者は笑い

雲も空も一緒に笑う

大方は老人のしくじりの話しや

ご飯食べたか、の話しや

お隣さんやネコちゃんの話し

鳩ポッポと長患いのヒサシちゃんの話になる

郵便局の印鑑もどこかへいっちまったから相続の話しもね

ば様も連れて行かなければなんねと

まだしっかりしているうちにとか

ば様はあそこで背をこちらに向けて坐っているけれど

ほら、耳はダンボの聞き耳頭巾チャンチャン

 

も、その話は何十回も聞いたよと

この人種たちはまた最初に戻って

ワッハッハと笑い合ってゐる

裏戸を出た、ちょっと軒端でのことだ

たいていの不都合なことなんてもうないんだから

苦しく生き延びるのではなく

楽に楽しく生きる

さうじゃありませんか

 

倉石智證