抱きしめて
と云ったらきっとすぐに頽くずをれるだらう
膝に最初の傷をつける
ドアの隙間からは盛んに今朝の陽の光が入って来る
それは縞模様になって息をついて
凝っと恩寵を待ってゐる
植物の蔓が昨夜の夢の続きのやうに屋根伝いに伸びて行って
戸惑わせる
どんなリズムや音階で始めたらいいのだらう
夢なら覚めないでと
むかしの恋なら簡単に山々や海を飛び越えてやって来るから
待ってゐるよと
大きく腕を広げて微笑んだ
それなのに
きみもきみなら僕もぼくだ
川の字になって手をつないで休んで
ずっとかうしてゐやうねと
それなのにどうしても竈の方が気になって仕方がない
するとば様はご飯作ってくれなきゃ困るとぐずり始める
朝は恩寵のやうに陽の光が戸の隙間から入って来て
すべて一つ一つを現実に引き戻してゆくから
たちまちきみは大急ぎで行かなくちゃと
ぼくの腕の間から飛び立とうと立ち上がる
その時
「待って」、と云ったら
きみは朝の陽の光の中に無残に溶けて霧散した
子供たちは多くの擦り傷をこしらえて
大きくなってゆく
膝の傷はいつか癒えるものだ
倉石智證