太田政男氏FBより
たきちゃんが愛してるって云ったら
てっちゃんはその脇をするっと逃げた
まるで意気地なしだなあ
たきちゃんがそれで少し涙をながしたら
てっちゃんはおそるおそる近寄って
でも肩など抱いてくれず
つれないなあ
てっちゃんはその間本を三冊も読んだとえばっていたが
たいしたことないなぁ
おんなのこひとりにも優しくできずに
ちっとも役に立たん
むかし純情なおのこがゐて
おんなのスケッチを一枚残したと云ふ
外表は見渡す限りの田圃で
おのこはうれしくて
跣はだしのまんま家の戸を開けて表に駆け出た
田圃の向かうの水平線の限りには
遠い山並みが青く連なってゐて
おのこはそれに向かって両手を突き上げる
大声で叫んで呼んだのに
女性はするりと脇を過ぎて
愛蔵のもとに座る
ろくちゃんは血を吐くおもひで粘土を盛んに捏ねた
一人の女性の像が朝日の中で輝くころ
もう春がそこいらまで訪れていたと云ふのに
ろくちゃんは血をいっぱい吐いて死んだ
光太郎は詩を書いて悼んだが
恋愛ってかくもムツカシイね
てっちゃんは本ばかり読んでいたが
ついにほかの女に心が移ったりしたらしい
たきちゃんは結局こころをすこし病んで
俊ちゃんの原稿用紙はたちまち
たきちゃんの落書きで真っ黒になった
倉石智證
谷川徹三、多喜子、俊太郎───
