その母は妣ははをねむらせ
その母は我が身に眠る
その母は妣を幾たびか眠らせ
ようやくにわが夢を見る
そはの母はゐ眠らずに夢をみる
夢路をたどり
裏の裏を表の裏を畑地を
屋敷の浦々をと
つままくものをとて
さてその今際いまは、
本人さへも気が付かないうちに深い眠りに落ちてしまってゐる
死は一時こちらの部屋から向かうの部屋に行くやうなものだ
だからなんにも心配なんかすることはないよと
でもほんの一時でももう決して帰って来れないことは分かってゐる
安心しなさいと
蝶の夢ほどは
何月何日と決まっているわけではないから
さりとてそれがぜぇんぶ、
ことさらにさみしい
確かにそして夢を見る
明け方、夢の水寞からかき分けるやうに起き上がり
また自分に真新しくなって
無言のまま台所へと続く
「おはやう」とびっくりするくらい間近で
きっと誰かが囁くに違いない
倉石智證


