わたしぢゃなきゃ務まらない
お茄子のー、グラタン(♪)
わたしぢゃなきゃとっても
蜘蛛の子が天井から眼の前にスッと下りて来る
式部の実珠を集ひし露の朝
こんな古びた家にわたしたち三人が取り残されて
三人だけになってぼんやりと
でもそれが愉快でたまらない
蹌踉そうろうとば様が裸電球の下へと歩み出すのを見送る
カボチャの茎がコルクになるまで農具の棚に抛って置く
「今夜わたしごはんへえ食べたっけ」
「お茄子のー、グラタン(♪)」
何度云ってももう一分後には忘れてゐるんだから
ほらほらこれが、
とお茄子の皿を眼の前に突き出す
妻は少し意地悪になって
この夕餉に外表にはひとしきりキリギリスが鳴いて
ほらほらこれが
いや、パジャマの釦がちぐはぐたわよ
もうとても、わたしぢゃなければツトマラナイ
おー茄子の、グラタン(♪)
外表にはしきりにキリギリスが鳴いて
倉石智證
ステージは次へ───
食べたものを忘れるばかりでなく、
食べたこと自体を忘れる・・・。
