世界中が熱中してウェーブしてゐるのに

ある人はゲルニカにゐて

その人の周りだけシーンとしてゐる

一時間半ほどもだ

世界中がある一部の人達には死ぬほどに熱狂して

海を渡って行くほどの人達もゐるが

ある人はシーンとしてゲルニカにゐてピカソの絵に見入ってゐる

ノートに詳細にスケッチして

平和な鳥はむしろピースピースと鳴いて

いま世界に飛び立って行ったか

 

ネイマールはむろん自分にがっかりしてゐる

足元にボールを気持ちよくピッチを泳ぐはずが

ボールを失い逆襲を受ける

勝ち負けは自分で選び取らなければならない

 

海に遭難した難民たちは

イタリアで断られ

何百人か助けられた人たちはバレンシアへ

港に入る直前

言葉も一緒じゃない人達が

「歌い、踊り、泣いた」

人は今、たった今

生か死か選ばなければならないとしたら

それはもう天に祈るしかないだらう

 

或る人にはたった一人、ゲルニカを選んだ人がゐて

熱狂やウエーブではなく

絵の前で辺りはシーンとしてゐる

かうして考えるためにはどのくらい静けさが必要であったか

一方、助けられて港に運ばれる人たちは

祈り、歌い、泣いて、踊った

 

遊び心を失ったネイマールは

悪いブラジルを象徴していたと云ふのだ

ネイマールは何を選び取ったのか

 

倉石智證