ぼくがもしかたわれだとしたら

ぼくは生を使ってゐる

ぼくは死を扱ってゐる

 

ぼくは俊太郎が好きだ

劉霞リュウシアの詩を書いて送って上げたね

ぼくは彼女の旦那さんの丸坊主の頭も好きだけれど

彼の光った眼鏡も好きだけれど

その奥の好奇心いっぱいの眼も好きだけれど

やはりぼくはまだなぜか女の子のやうな

劉霞が好きだ

 

彼女の不揃いな丸坊主な頭

抱きかかえて上げたら

きっと泣くだらうな

そんな彼女が

もう泣くのはうんざりだ

もう・・・とゆうとる

俊太郎さんはすかさず

劉霞さんを音楽で包んであげる

と云ふとる

 

たいした魂消たね

緊密にぼくは宇宙につながるだらうと思ふ

すごくいい考えだ

なかなか思いつかない

さすがに「20億光年」のせんせいだ

言葉はダメだと云ふ

ぼくも眼に見えないもの

カメハメ波でも送って見やうと思ふ

 

ぼくが生と同様に死を扱い始めたころ

花が部屋に咲いて

鳥さへ空から落ちるのを覚えた

 

倉石智證

(18,6,12朝日新聞)

昨年7月に死去した中国の人権活動家ノーベル平和賞を受賞した劉暁波(リウシアオポー)

劉霞(リウシア)さんは1996年、獄中の劉暁波さんと結婚。

獄中でノーベル平和賞を受けた夫の活動を支え続けた。、

劉霞さん(57)は7年以上にわたり、北京の自宅で軟禁状態に置かれている。

谷川俊太郎さん(86)は同じ詩人でもある彼女の身を案じ、「劉霞に」という詩を執筆。

劉霞さんのもとに届けられた。

谷川さんは「僕たち日本の詩人は、もっと彼女に関心を持つべきだ」と話している。

 

谷川さんは今年3月に劉霞さんの詩集『毒薬』(書肆侃侃房〈しょしかんかんぼう〉)を読んだ。

その中に「無題―谷川俊太郎にならい―」という詩があった。

〈もううんざり 見えるだけで歩けない道

/もううんざり 汚れた青空

/もううんざり 涙を流すこと……〉

 

(俊太郎さん)

言葉で慰めることも

励ますこともできないから

私は君を音楽でくるんでやりたい

どこからか飛んで来た小鳥の君は

大笑いしながら怒りを囀り

大泣きしながら世界に酔って

自分にひそむ美辞麗句を嘲笑い

見も知らぬ私の「無題」に

君の「無題」で返信してくれた

そうさ詩には題名なんてなくていい

生きることがいつもどこでも詩の題名

一度も行ったことのないところ

これからも行くことはないところ

国でもなければ社会でもない

そんな何処かがいつまでも懐かしい

茶碗や箸や布団や下着

言い訳やら嘘やら決まり文句

そんなものにも詩は泡立っている

君のまだ死なない場所と

私のまだ死んでいない場所は

沈黙の音楽に満ちて

同じ一つの宇宙の中にある