その椅子がよからう
その椅子がどうしてもよからう
八つの颪がびゅんびゅん外に鳴っても
ガラス戸が透明にガタピシ鳴っても
あゝ、ここだけが小春日和に
縁側のその椅子がよからう
じ様がいつもそこに腰を掛け
今はば様が座る
椅子は黙して何にも喋らないけれど
その椅子がよからう
じ様の想い出が沁み込んだ
いつもその椅子でうつらとしていた
頑丈な、その椅子がよからう
しろくしろく透明になって
じ様がそこから旅立つ
八つの颪に透明なガラス戸がガタピシ云って
でも、なんて縁先はしずかなんだらう
かうしていつかはまたそこから見送る
その椅子がよからう
ばさまにすることもなくきょろきょろ辺りを見回す
すべてが全部周りに在って、見慣れた
庭先には花叢が咲き立って来る
その椅子がよからう
わたしにはとってもここが落ち着く
倉石智證