時間と云ふ

おまへは私の前を横切ってはならんよと

お前はひょっとしたら真実かもしれんが

お前は私たちにちょっとした幸福を投げかけて行ったものだから

おまへはやはりそれはそれでお前さんの都合かもしれないが

それが深く傷をつける

だからよけい世間がしっかりと心に沁みて来るのだよ

 

後追いかけるおまへの背が隠れ隠れ見える

切れ切れのそれを集めて何度か

でも手の平から水のやうにさッと流れ出て、後も還らない

じ様の命日を忘れたからと

あなたたちはやいのやいのとわたしのことを云い立てるが

私の周りには忘却と云ふ無数の雨が降って来て

金の雫ふるふるまはりに

そして、銀の雫ふるふるまはりに

私の顔がきょろきょろして

何かを探しにこの古びた家ぢゅうに一巡する

 

李の花が満開になって

春はいよいよ朧に

おばあちゃんは銀のお舟に乗って

ぎっちらこ

月のお空に浮かぶのです

早々と寝所に

両手はいつものやうに胸の前で組んで

眼を瞑り

天井を凝っと見つめてゐる

 

倉石智證

3/18のじ様の命日のことをすっかり忘れてゐる。

じ様の弟や妹が3人、孫が2人、妻の姉夫婦、

じ様のすぐ下の妹の旦那さんが訪れて下さった。

坊さんが経を誦み、お墓に詣で、線香を焚き、お水を掛け───。

食事会ではじ様の一番下の弟さんが詩吟を詠じ、座が盛り上がった。

お天気は晴れて、線香の煙が気持ちいいほどにお空に上がって行く。

でもそんな事どもがみいーんなすっぽ抜けてしまった。

今を辛うじてを拒んでいるわけではない。

でも瞬時瞬時を、後ろで絶たれてゆく。

もうばーさんは、好き勝手に行くさぁ。