確か左から右へと走って行った
風がない割にはずいぶんと前傾してゐると思った
手前の左側には紅李べにすももの花がワッと咲いてゐる
今しも天を目指して気張って行こうと云ふ気配にみなぎってゐる
遠くの方には高速道路が走り
自動車が豆粒のやうに見える
空は青く晴れた
用もないほどにと云ったら笑われるだらうか
こんな日には蝶が生まれる
犬の鼻の頭に陽が留まる
犬は鼻の頭に留まった陽の光を取ろうと前脚を上げる
たちまちそれは蝶になって飛んで行った
書割りにほったらかしにしといた
ならば都会に出掛けて行った人にも
もし空を見上げることがあるならば
みんなの一人一人の空は
陽の光にどんなふうに見えるんだらう
とも思った
紅李に地の水流が激しく樹液し
若者は往った道から確かな足取りで戻って来た
相変わらず高速道路を走る自動車は豆粒のやうに小さく
空を見上げると用もないほどに空は晴れて
とわたしは自分で自分に笑ふ
蝶は春のよんどころない気圧の中に突然生まれてくる
倉石智證
