「せっせっせ」玄関でのおまじない。

 

あなたは私の一番つらい時にそばにゐてくれたから

あなたは私の友達になる

あなたは私の一番うれしい時にそばにゐてくれたから

あなたはうれしい恋人になった

あなたは私の一番幸せな時に傍らにゐてくれたから

あなたは私に信頼のおける妻に違いない

 

そんな時が結構長く続いて

朝と昼と晩と何にも話すことなどなくても

時たま振り返って笑い合ったりして

だんだん空気や家具のやうになる

たまに「おい」なんて呼んでみたりすると

びっくりするくらいにそばにゐて

やれやれ

 

やがて飴色のやうなたまやかな空気も次第に褪めて来て

景色の中に何か秋の日のやうな透明な空気が沁み出して来ると

こもごもの別離が玄関に音ずれて来たりする

労り合ひつ悲しいを二人で持ち合うやうになると

それは伴侶だ

並んでみるまでもなく

なにかそっくりな顔付きになってゐる

 

倉石智證