■(千曲川)飯山から戸狩を過ぎて、西王滝に至る手前。
ぼくらはうれしいもあるけれど
うれしいよりも悲しいが多いと思っているから
この地球も生まれてこのかた
悲哀で出来てゐる
水を湛えた青い星なのだ
水がくしゃみをすると水は皺くちゃになって
それは老人になる
水がゆったりとゆれるとそれは母親になって
とてもやさしい
息せき切って赤ん坊が生まれた
水を両手の間にまるく大事に容れて
やがてすぐに人生を歩いて行く
こんな心細く頼りないものがあるだらうか
水が零れる
そしてどんなに手で押さえても
水はどんどん零れて行って
与える
その跡には美しいまでの花々が咲き競うが
ぼくは地球は蒼いと思っているから
この星はやはり悲哀で出来てゐて
いつか別離がやって来るから
ぼくらはいそいで
もう精々がかなしいを持ち寄って
この腕だけにかなしいを一杯に持ち寄って、
だからうれしく会いに行くのだ
手を上げてこの世の人に逢いにゆく
倉石智證
