あゝ、彼は「あれは何」て云ふ
私はあれは蝶々だよ
と答える
無心に、それだから心底恐れなくてもいいのだよと
紅葉がふと
あんな高いところから舞い降りて来る
木もないのにどうしてあんなところから
風に身を任せてまるで秋の蝶々の
いとけなきもののもうすでに季節の終わりを感じ
破れ蝶のものさわぎに
不在を告げに来る
垣根に山茶花が咲いて陽がキラキラと射している
垣根を飛び越え飛び越えしてそれはやって来る
彼は「あれは何」て聞くから
わたしはあれは蝶々だよと
硝子障子越しに
陽の光りの眩しく
いや風さへなく
もはや見渡せる木さへなく
はらはらと紅葉が舞い落ちて来て
蝶々は垣根を越えて
もうすっかりゐなくなるんだねと
フフフ…背を見せて
ぼくたちはきっとそこで落ち合ふ
倉石智證
