だから云ったぢゃないのと

あれほどに

まるで安物の決まり文句の

不在を告げても仕様がない

ほんたうに細い路を名前も知らない裏の通りを

ぽつりぽつりと来たんだ

 

玄関の戸口が急に開いて

やあ、と声を掛ける

いきなり背丈ほどに伸びた

影法師の

それから座り込んで路に

水で文字を描き始めた

頼りにならんね

帯を締め直して

ふらりと出掛けて行った

 

おくれ毛、手拭い

道行き、偲ぶ

路地にはいろんな植木が所狭しと花を付けて

いい日和だね

風がさやかに吹き抜けてゆく

水文字のさやうならが消えてゆく

 

ふっと顔を上げたらなにもかも

あなたの後ろ姿も影法師も

かき消すやうに消えていた

 

倉石智證