あの人もあの人も

とたいていは思い出話が始まる

あの人も死んだんだと朝から耳の奥に響く

でもお茶碗をもってご飯を掻き込むことは

あなたはお百姓だからやめられない

つんぼなんかぢゃない !

そんなことが続いてゐる間ぢゅう

カッコーの鳴き声が背景のやうにずっと続いてゐる

 

けふの味噌汁は少ししょっぱいね

さいには畑のものの新じゃがと玉ねぎと

少しこわくなった小松菜と煮詰まって

ば様の呆ほうけたせいだと妻は詰なぢるが

それはそれでけふも暑くなりさうだからちゃうどいい

 

「カレンダーに人の告別式の日など書き込まないで、

どうせ暦は日捲りに捨てられて仕舞ふのだから」

 

会話と云ふかば様の入れ歯のくちゅくちゅと云ふ音か

デデポポーの鳴き声まで入り混じり始める

葡萄の棚下に百姓の時間を追いかけるやうに

細かい赤ん坊の房が無数に生じはじめ

TVのスイッチを入れると天気予報がお日様マークに

すぐに桑田の長閑のどかな歌声がリビング流れ出して来る

おそらく今、日本国ぢゅうのお茶の間に

みんな耳と目を欹そばだてて・・・

 

あゝ、そんな景色ではとても間に合わない───

「雨樋に下りて上ってまた降りて雀パーチクお宿はどこだ」

まったくいい一日になるといいね

 

倉石智證