必ずや風を呼ぶだらう
それは緑の風だらう
多くの好奇心を以て千枝を広げるだらう
蔓枝は風にゆらめく
声や歌のやうになるだらう
つひには虜にするだらう
燕たちは軒下から飛び出て来る
村道を村郭に縦横し
必ずや濡れた地衣の方に
あらかたは水の張られた田圃の方に向かうだらう
春燕が軒下を門柱に飛び
遊める
農事がどっと沸いて来て
壁面に
一方にはトラクターがのどかな音を立てて
一方にはSSが猛然と消毒に向かふ
千の蔓枝が笑ふのだよ
風の形容になるのだよ
お指を上げて
千の眸めを付けたあるいは爬虫類のやうに
用心深く、宙に
風の緑が一斉に弄なぶる
奔放と云へば奔放に
ゆへに目的があるほどのことも無く
ただ生きると云ふことにのみに専心して
生まれ変わる
まるで新たな衣でも脱ぎ捨てるやうにあっけなく
生まれる
そしてまぎれもなくこれらのすべてを支配してゐるのは
時間だ
必ずや風を呼ぶだらう
それは緑の風だらう
多くの好奇心を以て蔓枝を宙に広げるだらう
深更、わたしを訪れるガガンボはまったく自己責任になる
早朝、スタンドの下、四肢を硬直させて仰向いてゐる
また、
「瓶にさす藤の花ぶさみじかければ たたみの上にとどかざりけり」
と云ふのもありけり
季節は性急に巡りすでに
藤の花房は緑の小さな莢になって千個と鈴に成ってゐる
倉石智證
