■ヨツバシオガマとマルハナバチ(北海道大雪山)


言葉をただ無垢のままに食べたとしたら

ただそれだけではつまらない

マルハナバチは何千何万と云ふ花をまへに

背なに脚に繊毛に無数のべき数を入力して

翅音だけで花たちの言葉を拾い出し

替わりに花の蜜を集合する

ただ黙って訪れてゐるわけではないのだ


辛抱強い忍耐と勤労と

花にしてみれば教唆と誘導と

でもそれらは天が許し、無限に投げかけたものだ

この翅音は決まって人には眠気を誘うが

花たちにしてみれば「ごきげんよう」

夏の最後のチャンスかもしれない


38億年と云ふ進化の果て

君等には地球はまだまだ任せきれないから

本当に君たちって争い事ばかりしているから

女子どもを泣かせてばっかりいるから

かうやってぼくたちは

一生懸命戯れるやうに

言葉をただ無垢のままにマルハナバチ

BUZZZZZZZ


倉石智證

ヨツバシオガマは自分たち種の全体の安全保障を

他であるマルハナバチの存在に預けた。

ヨツバシオガマは、花の構造を特殊化することで、

マルハナバチと特別な契約を結んでいる。

マルハナバチが花にしがみついて体を震わせたときだけ、

花粉を出し、受粉してもらうと云ふ作戦。

しかし、仮にマルハナバチが全滅してしまったりしたら、

自分たちも全滅してしまうと云ふ、一種先鋭的な安全保障に賭けてゐる。

北海道大雪山系では他に、

気温に合わせ開閉するミヤマリンドウ、

太陽の熱を集めて虫を呼ぶチングルマ、

みんな自分たちの種を残すために必死に自己選択を繰り返してゐる。

集団の生存率が選択的進化へと結びつくわけだ。


で、その間、あれら達仲間には

言葉が全くないと云ふことはない。

翅音、BUZZZZZZZ───

無垢な言葉たち。