韮に花が咲く
白い花の穂叢が続く
蝶々がひらひら舞ひ
あれは二つ折りのお手紙
軽々とした愛
花叢は蝶々たちのお休み処


山椒の葉がそのうちに少しづづ
気が付けばアッと云ふ間に丸裸になってゐる
青虫くんがむくむくと枝に這ひ
つまむとむにッと角を出す
あゝ、邪魔をしては不可なひ
そこは青虫くんちの食餌処

空はあんなにも晴れてゐるのに
地の中は真っ暗だ
わたしが土の中を耕しているとき
土の上をどしんどしんと人間が歩いてゆく
あゝ、土の中はいやだね
そろそろ寒くなりかけると蚯蚓同士は躰を寄せ合ひ
ちちち、ちちちと心細げに鳴く
暗くて暖かいそこはミミズの寝床になる


そして深夜に
おまへたちはどうしてさう夜通し鳴いてゐるのか
りりり、りりりと庭づたひに
りりり、りりりと裏の畑に
奏楽はわたしの膝ほどの高さに
空気の一面になって見へずうち顫へる
一生懸命暗い夜の底ゐで
そしてやうやく明け方ともなると
りりり、りりと漫ろにまばらになり
おまへたちもきっと眠るんだね
そろそろわたしも眠らなければと
そっと眼を見開く


倉石智證