私か ?
わたしかと云へば不思議な事に過去と未来の真中にゐる
母と父の真中にゐる
子供たちととじ様ば様の真中にゐる
階段を上がりかけて
さう云へばちゃうど
死者と生者たちの真中にゐる
階段を上がりかけて
ふと何か思ひ出して次にまたふっと何か忘れかけて
また降りてみると云ふやうな
中途半端な手持無沙汰な過去現在未来の不思議な隘路の真中にゐる

間断なく途切れなく
愛と友情の
膨大な生者たちが、あゝあそこを目指して
足が地を叩けば足は地に届くことなく虚しく空に足掻き
帽子は頭上にズレて
愛は戦場にはかなく
地の下の迷路は逃走者のもので
何十㌔と云ふ
悪い巫山戯だ


私はわたしの時計を引き返して来て
私か ?
わたしはいつも階段の途中にゐる
階段の途中に腰を下ろし
秋ならば虫たちの鳴き声を家の外と中に聞き
老人たちがちゃんと食事をとって眠りに就いたかなどを
見てゐる
そして彼と彼女の場合だが
意外と彼らなりのしっかりした足取りで寝所に消えて行くのを見ると
私か ?
私の居場所も気が付けばなんだか上の方にずれてゐて
妻の寝顔がすぐそばにある


倉石智證