けふは僕は虫を殺さないと決めた
あゝ、それはまたなんと云ふ裏切りなんでせう。
眼で見たまへ
眼で犯す
しょっちゅう
蝶々が眼のまへを飛んでゆく
山椒の葉がざわめく
無数の視線が入り乱れて激しく交錯してゐる
耳で聞きたまへ
耳で見る
耳でなぞる
三半規管に海を一杯にためて
水平に揺らしてみる
すると涙が眼にしみ出て来て
鼻の奥がつーんとして
恰好悪いね
里芋の葉にも幼虫が湧いて
あんなにも空に鳥たちが喧しい
世界が一直線につながって
食べるものと
食べられるものとが一生懸命になって
抗う
眼で見たまへ
耳に聞こえる
片時も休めるものとてゐない
だから、
けふは僕は虫を殺さないと決めた
あゝ、それはまたなんと云ふ裏切りなんでせう
目と耳と鼻と
そして最後に
口が笑ふ
倉石智證