ただ空を見上げてゐるだけのわたしではゐられない

キーンと晴れてヒコーキ雲が───

籠(こ)もよ み籠(こ)持ち

掘串(ふくし)もよ み掘串(ぶくし)持ち

空満つ、この丘に

菜摘ます娘

菰よ、み菰よ

薄氷うすらいに魚いを丘に上がり

葦が角つのぐむ

景色はいつも整然と調ひ

子供たちの声が角々に湧いて

そして消へてゆく

 

まだ2000年ほども経たない昔に

キーンと空は晴れてヒコーキ雲が

籠(こ)もよ み籠(こ)持ち

娘たちよ、あなたたちよ

葦は角ぐむ

薄氷は岸辺に溶けて水ぬるみゆく

魚の背が黒々と水を分け

 

大王が声をかけやるのだ

娘たちと、空の見たこともない銀色の翼に

ただ空を見上げてゐるだけのわたしではいられない

娘さんたちよ、わたしのお嫁さんにならないか

空満つ、あれの時の翼に乗って

途方もなく、連れて行ってもらへたらわたしを

わたしのまだ見ぬ時空の彼方に

倉石智證

万葉集の巻頭を飾る

雄略天皇の御製歌(おほみうた)とされる。

 

籠(こ)もよ み籠(こ)持ち

掘串(ふくし)もよ み掘串(ぶくし)持ち

この丘に 菜摘(なつ)ます児(こ)

家聞かな 名告(なの)らさね

そらみつ 大和(やまと)の国は

おしなべて われこそ居(お)れ 

しきなべて われこそ座(ま)せ 

われこそは 告(の)らめ 家をも名をも