ぼくのカーソルは止まったり動いたりしてゐる

とても気まぐれだ

ぼくが真剣でいるのにそっぽを向いたやうに蹲る

びくとも動かなくなったりする

やさしくないね

悪戯っぽく点滅を繰り返すが

今度はぼくが知らんぷりでもしてみるか

 

そんなわけで

ぼくはトイレの便座に腰をおろして考え事を始める

それだってずいぶんと勇気がいることで

だってそうこうしているうちに

あそこではどんどん柿の実が色づいた

ぼくが立ち止まっているのに

リンゴの実がずんずんと赤みを増した

ぼくだけが

ぼくの時間だけがあそこやここに留まっているのに

あゝ、まったく大分先に行かれたものだ

ぼくの時間だけがここに凹んだところにでも置き去りにされて

事物や色や匂いや景色が

もうずいぶんとぼくの先に在る

1978利根山光人「祝祭」

 

さて、ぼくは

世間や世界の時間の先に行くにはどうしたらいいかと考えてゐる

眠っていて目が覚めたらとか

深く潜っていて水面からざッと顔が抜き出たりした時とか

そのとき僕の感性は赤ん坊か

少なくとも少年のやうに瑞々しくなる

 

倉石智證