病院の電話はかからない

病院の電話はつながらない

どうして誰も出ないんだらう

どうして誰も気がつかないんだらう

無数の小部屋に閉じ込められて

無数の廊下が入り組んで

無数の個人が仕事をしてゐる


それはそうとあそこでは

ずっとさっきから電話が鳴っている

ずっと先の部屋のどこかの部屋の

ずっと曲がりくねった廊下の覚えきれないほどの

階上の、階下の

そして、どこかの部屋で

どうして誰も気がつかないのだらう

どうして誰も出ないんだらう


助けて下さいって

祈って下さい

観念がわたしを鞭のやうに打ち据える

Aコートのカウさんによろしく

エスエヌエスのシーさんによろしく

あそこのベンチで握り飯を食べてゐる人がゐる

でも、

どうして誰ひとりとして気がつかないんだらう


どこかにずっと電話が鳴り続けてゐる

病院に電話が鳴っている

誰にもつながらないんだ

ライトが頭上に点けられる

顔も胸も腹も、シートに覆われて

あゝ、いよいよわたしの番だ


倉石智證

カフカの「城」を少し念頭に。