リンゴを食べる時は

人はつつまししやかに

うつむいて

リンゴの香が鼻腔を突き抜ける時

それであゝ、あなたはそこにゐると気づく

えくぼに秋をのせてひよひよと来る

手にずっしりと重さを持って

あなたはさうしてあいさつに来た


わたしは意見を返せない

香にさくさくとテーブルに分け

ことの成り行きを見守るばかりだ

童話のやうに仲良くしてね

毛糸のボールを投げ交わす

硝子障子の薄明りに

ぱたんぱたんと意気地をかへす

この径を行けばどこへゆくのか

ましてや気にかかるあなたには聞けない


リンゴを思へばその片思ひの

遠い思ひを今すぐそこに

その辛辣を思ひ出す

リンゴを食べる時

不図、片靨を

人はつつまししやかに

リンゴ可愛いや可愛いやリンゴ


倉石智證