満月の夜に
カボチャの花を摘んだ
娘が帰郷する
すぐ近くからにもかかわらず
(ミュンヘンからでもある)
さうだ、ここが自宅になる
中秋の名月
ヘリコプターが紅い点滅を点し
月の傍らを飛んだ
防衛省の塔屋のランプもまるで眸のやうに赤く点滅する
満月に雲がかゝる
あれはどこへ行くのか
娘が口を開ける
「ただいま」と云ってゐる
娘が玉子を食べる時
口がまんまるに空く
驚いたり、威嚇したり、みだりに感動してはならない
月はまん丸だ
年頃にしておいて花を摘むなんて
しかも、こんな満月の夜に
まだまだだ
まーだだよ
塔屋に月はまんまるに
ヘリコプターの音が途絶え
カボチャの花はほらここにある
まるで月の色をして
土に植ゑられて
倉石智證
めぐりあひて見しや/それともわかぬまに
/雲隠れにし夜半の月/かな(紫式部)
戸惑ううちにいっさいが消えてしまう。
遠くかいま見て「あっ」とばかりに胸をときめかせるうちに
雲が月を隠し、あたりを薄闇にしてしまった。
人の世の恋の余燼(よじん)として、つきづきしい。
(阿刀田高15,9/27日経)


