ぼくがあなたのことを不意と忘れてゐるときに

あなたはわたしのそば近くに佇って

わたくしのことを訝しむ

うわの空のわたしは

わたしぢゃあないわたしみたいだ

ぼくがきみを初めて見たとき

まだぼくぢゃあない僕に不意ときみは近づいて来て

僕の中に知らないぼくが整った

そしてぼくはきみの中にゐて

きみの中をぼくの膨大な昔とともに真っ直ぐに落ちた

そのあまりな速さにぼくたち自身

身震いする

 

或る時

透明な涙のやうなものが

あなたの中に宿る

ぼくのものとあなたのものの知らない

私たちのものだ

それは育み、育ち

月の夜が過ぎ

昼を太陽が大股ぎで跨いで行き

それらの間をにぎやかに

無数の星々の言葉が飾った

 

それなのに今のわたしときたら

あなた近くにゐて

もはや言葉は必要なくなって

食べることと眠ることしか興味がない

ずい分とあなたのことさへも忘れて

きょろきょろするわたしのそばにあなたは佇って

そんなわたくしを訝しむ

あなたはあなたの

わたしはわたしの中に広がるこのなんとはなしの空洞に驚く

茫然と伝わらない他人なのだ

 

あんなにもあなたの指の間を

叮嚀にさすって上げたわたくしなのに

care roomにて

自分の不実に

ひとりぽっちの頼りなさに

不覚にもよろめく

 

倉石智證