もっとも生命が必要なときに

ほかの声など届くものか

南無阿弥陀仏も蚊帳の外に

雲古、疾乎も意識の外だ

云われるまゝにできるだけ躰を動かし

ままならない時は椅子に座る


新聞は活字に見放され

TV見るさへも漫ろになった

いっそ、見ないがよろしい

ひっそりと空の食器を眺めては

あはれ眼は虚ろにさ迷ふ

食べるか、眠るか二つに一つ

三つ、四つはもうありゃしない


傍らに

呪文のごときば様の独り言がずっと続く

舟は喫水線もろともに

ただ知らぬげに時をやり過ごし

三半規管も、海馬も、あゝ、だめだなあ

みんな方向のない海へと漂い出た


老人は哀しい

ごくわずかな毎日の繰り返しの中に

茫茫と意識が次第に途切れてゆく

しまいにはわたしはたれ

と云ふことになるが

それでも孫でもくれば

口もあんぐりと眼を輝かす



倉石智證