■鹿島槍ヶ岳冷池山荘、玄関前小高い庭のテラス。

 

あれはなにかと雲にとへば

あれは泡だと風がこたえる

黄金の色は何の用ぞと

もう待ちきれぬ早くおいでよ

嶺の高さにジョッキを掲げ

はいよ乾杯とおだを上げる

 

あれはなにかと風が囁く

あれは友だと嶺がこたえる

することもない午後にもなれば

小麦の液はジョッキに冷えて

あれはなにかと笑顔が笑ふ

知らぬ人にもやさしくなって

つい声かけてまたも乾杯

 

嶺を下りてはすることもなく

下界の話するわけでなし

雲が流れる地軸も酔うて

哲学する不図老人の背中から

安曇野に湧く雲の次へと

あれは何かと雲がとへば

覗き見る

あれにおじゃるはウヰスキーぢゃあないか

かにかくに切りさへなくて

漫ろ酔ふ

夕影を待つ

 

倉石智證