手帛ハンケチは膝の上に落ちた
「なぜ ?」
謝る誰かがゐる
「残酷だわ」
テーブルの上を廻る会話だ
多分、男と女がいて
女の眼が泣き腫らす
衣服に閉じ込められた肢体がこのやうに艶めかしいとは知らなかった
夜の八時までにはまだ大分間がある
帰さうともしなかったし
帰ろうともしなかった
1940国吉康雄「逆さのテーブルとマスク」
かうしてじりじりと半刻ほども経った
女はしゃくりあげた
男はわたしの存在のためには貴方がどうしても必要だ
と云ふのだ
我儘が極まり
戀がかき口説かれた
正当なことであるやうでもあるし
なにかとんんでもないことのやうでもある
心臓がのど元から飛び出そうになって
気取られまいと目元を泣き腫らし
手帛ハンケチは膝の上に落ちた
男と女は二人してじっとそれを見つめていた
倉石智證
