なにしろ百年の陋屋だ
半日も歩かないと
廊下に蜘蛛の絲がかかり
わたしが歩くとわたしとわたしの顔にかかる
家屋が呼気をし
蜘蛛の絲ばかりではない
いたるところでみんな結託する
わたしが呼吸するとみんなが呼吸する
大きくビブラートし
ピンクのメリーネコを食べたネズミは
たいてい水のある方によろけ出て死ぬ
角に立てかけた掃除機にフマキラーが寄り添い
なにが何でも出てきたゴキブリは殺さずには済まない
床は黒光りする
みんなひやひやと歩き進み
しのびやかに、音を消して
そうこうしてゐる内にお尻の辺りがすうすうして来て
お先にごめん、なんて云ふこともあるんだから
遠慮深くつつましやかにすれ違う
あれ誰だっけ、と云ふくらいに掻き消されて
顔と頭が先にゆき
人格が背にくっ付いて後からゆく
天井近く、ぷかりぷかりとゆくらしい
倉石智證