暁闇を渡る

いくつかの暁闇を渡る

その縁々に立てば

すぐに私から暦が奪われ

やがて時間が喪しなはれる

ぽっかりと


すぐに六月になるだらう

木下闇が日に濃くなる

さくらん坊が樹幹にきらめき立つ

放埓に油紙の上に下ろされ

わたしはその紅の実の一粒を

そっとあなたの唇の上に置く

鮮烈な


そして私の夜が終わり

わたしはやうやく戻って来るのだ

目覚め

時の彼方からふと

確かなものへと

収穫はまた著しい喪失にはちがいない


腰を伸ばし

かうして山を遠くに見る時

山はあらゆる感受性の隣人だと云ふから

そしてわれへと帰る

時間の中で

おびただしい緑の中で

わたしはもっと寛容になり

山への態度ももっとやはらいだ思ひになるだらうと

ふと自分で微笑むのだ

暁闇から出でて


倉石智證