ほくがここにゐるのはどうしてだか知らない
あれやこれや云ふけれど
どうしてだかほんたうのことは知らない
ぼくがここにかうしてゐるのは
ここにずっと留まらうとしてゐるからではないらしい
ぼくがここにかうしてゐるのはあそこまで行くためで
それはあそこかどうかはまだ確かなことは知らない
おそらくそれはずっと
少しずつずれるのだ
1979シャガール92歳「グランド・パレード」
ぼくがここから歩き出すのは自分の影を運ぶためだ
自分の影をあそこまで運んでゆきたい
元気よくずんずん歩く度に
影もずんずんぼくのまえへと歩いて行って
けふぼくは影がどうしてこんなに長く伸びてゐるのか知らない
どうしてけふは影がこんなに長く伸びてゐるのだらう
そして、叱りつけるやうに
ぼくは自分の影を踏みつけやうとするが
僕は自分の影のことは知らない
今まで一度だって踏んづけたことが無いからだ
夢の中でしか、きっと
眠ってしまへばきっと
ぼくは起きあがり
そして思い切り影を踏んづけてやることができる
かもしれない
とーさんとかーさんがぼくをつくってくれて以来
ぼくはずーっとそのことを悩み続けていた
ぼくはぼくのことをどうやら知らない
影はどうやらずっとぼくにくっ付いて
ぼくが動く方にいつも一緒にうごいて来るが
そのことの方がなんだかいっぱい心配だ
いますぐそこで
長ーい影と、小さな影が二つに分かれた
ぽんと離れて
小さな影は元気よく公園の中に走って行った
おかーさんの影は乳母車を曳いて
途方に暮れてゐる
ほくがここにゐるのはどうしてだか知らない
ほんたうのところ
こちらからあちらへ
あちらからこちらへ
そして、それはいつも
倉石智證
