あそこにも、

ここにも、

世間のいたるところで私以外の夫がいっぱいいるんだもの

バスにぎゅうぎゅう詰めに全員斜めになって

みなじっとこっちを見てゐる


白いとても清潔な便器が好きだし

しばらく眼を離すことが出来ないでゐる

わたしはとても他者ではあり得ないから

私以外の他者が不意と零れてわたしに先立つ

驚いた

感情がこのやうに横殴りに来るなんて


みんなしっかり立ってゐる

清潔な便器は欠かすことが出来ない

それに

1000年ばかりのことなんかついこの間のことのやうに思へる

何千万と云ふ大ぜいが通り過ぎていって

また戻って来る

(確かにわたしはその跫音を聴くのだ。

気になる土地・住宅・税制改革のことなど)


私以外の大勢の他者がゐて

私自身のなかにも不意と見知らぬものがゐて

いま目覚める

欠伸が出るほどのこの便器のカーブから眼をそらして

けふもバスに乗る

あゝなんて

しかし、この全体としての斜めに

いつまでみんな耐えられるのだらうか


倉石智證