そんなことせってられねやさって

右足をかばい、左足にサポーターを当てゝ

さびやさなって

冷へた玄関先から林檎を函に詰めて送ってくれた

林檎はそれだけで驚きです

林檎はそれだけで人格のやうです

手にお百姓さんのさびさびと

陽にあかあかと愛が生まれます


そんなことせってられねやさって

軽に飛び乗って

雪の轍をおっかなびっくり

病院へ介護のお世話に行きます

吐く息は白く

そんなことせってられないって

こちんこちんになった雲古を指でかき出す

もう喋れないなら喋らないでいいから

今夜はこれから泊まりになる


愛は玄関先に在って

雪夜に冷へて

愛は人格です

林檎はそれだけで驚きです

まこちゃんまこちゃん、ほらこんなとこにこんなに蜜があるよ

種の周りが人の顔みたいになって

泣いてゐるのやら

笑ってゐるのやら


夜の病院はさびぃど

壁の端から暗くなって

でもおら、幽霊でもいいからおっかさんに会いたいって

わざわざ暗がりの方に行って

じっと待ってみる

出て来いって、おっかさんにせってやるんだ

おふくろの齢も超えたもんな

ほんとにな、会いたいもんだ

休憩室に入って、真剣にテレビ見てゐる


とも、莫迦だなぁ、そんなことも知らねんか

弟のお前の手は可愛いらしくて

紅葉のやうな手で皸あかぎれ

おっかさんがよく炬燵で両手で温めめてくれたもんだ

ほうら、林檎もってけ

送ってやんど

なにしろ、そんなことせってられねやさ

今日も明日も

みんなおらを頼りにしてゐる

とも、とも、

お葉漬けもうまく漬かったぞ  


倉石智證

せう=云う

さびい=寒い