ページをめくるたびに困った
そこには何もないからだ
国境の近くのホテルに泊まる
この際
るんるんに乗ってあちらに行こうと
真っ赤なシボレーに跨ったが
一向に動かない
仕方が無いのでぽこンとやっつけたら
後ろでヘミングウェイの小父さんが笑ってゐた
やあ、ずいぶん齢を召されたんだね
お会いできて光栄です
早速に、ダイキリちょうだい
ギンギンに冷してねフローズンににしてね
ページをめくるたびに困った
カジキマグロはどうやらあっちの方らしい
国境の近くにホテルをとったが
連中ときたらやたら銃を撃つばかりで
言葉と云ふものを知らない
じゃあ教えてあげやうと札束を数えはじめたら
一枚、2枚、3枚と・・・
あっという間に眼の前からいなくなった
あゝ、この盗人たちめ
わたしの手の中は空っぽだ
国境の町に、
国境の町に、
けふも大勢の人たちがやって来る
モノ売りの声がする
しつこいね
兵士や、難民や、スパイや、子供や老人や
小突いたり、小突かれたり
のの知り合い促されて
真っ赤なシボレーは役にも立たない
カジキマグロは海の真中を悠然と泳いでゆく
いろんなことがもう間に合わなくて
だからページをめくるたびに困って仕舞う
なぜならそこから先には何も書かれてなくて真っ白で
やけになって私にダイキリちょうだい
ギンギンに冷してカウンターに滑らして
大きなファンがゆっくりと天井に廻り
空気を熱帯にかき回すたびに
私の脳裏から何かがひっきりなしにはがれていって
国境を越えたらもう帰ってこれないかもしれない
急に、とてもめらんこほりぃに
小父さんと云へば埃臭い街の角に消えていった
ブェナビスタ
わたしももう少したったら出掛けやうと思ふ
倉石智證