二人が眠りから覚める時

一人は蜜蜂の囁きを聞き

一人は花が開く音を聞いた

それはほとんど奇跡のことのやうなことだった

二人と云ったが実はほぼ全員のことで

全員とは猫達とわたしを含めた全員だった

二人が最初に目覚め、聞き耳を立てる

何もしないでゐると云ふことをずっとしてゐて

出来るだけ何もしないで幾年かが過ぎた

止むなく食べると云ふやうなこともしてゐたが

屋根の下で薪を燃やし

水音を聞いて、星と太陽の運行を眺める

さうかうしてゐる内に猫が生まれた

杣の家の軒の下の古びた蒲団の上に折り重なって寝てゐる

猫たちも何にもしない

仕方がないので戸板の上に鬼グルミを干した

陽にかんかんに当たって乾いて行く

旅人が二三人、おもしろさうに立ち止まり眺めてゆく

私たちを構成するはずの微粒子はたえず空気の中に拡散していき、

ついには宇宙へと希釈されていく。

存在は常にその揺らぎのなかに、かろうじて、かすかにある

──いわば蚊柱のような──不定形の気体であって、

その外側にある大気とのあいだには絶えず交換が行われるゆえ、

明確な区別や界面はない。

(福岡伸一・生物学者14,11/30日経)

相模湖の鏡のやうに静まり返った水面に魚が跳ねる

どこか遠い高架橋の上を

がーッと電車が走って行く音が聞こえる

えらく人が混んでゐると云ふ話だ

 

倉石智證