うれしいことは

母が生まれた日に、

父が生まれた日に、

子が駈け集まって、ささやかに贈り物をし

灯をともし

笑ひ合ふことだ

天に地に星がさざめく


さみしいことは

見知らぬ人がけふ息を引き取ったり

初めての林に彷徨い入り、茸の目覚めを聞いたり

川に魚を捕まえて

魚が両手の中で躁ぐのなどさみしい

土手の長い彼方におぼろげな人影を見る


幸せなことはうれしいに似ている

ささやかで小さなことで

毎日の眼の驚き

花に、こんな高い山に虫たちが蝟集ゐしゅう

夜明けに山の端に陽の光が昇って来る

オリオン座は、と呟く友がゐて


うれしいにつけ、さびしいにつけ

日は忙しく過ぎてゆく

じ様はまたこけたとば様からTELがあり

がん検診受けたかとまこちゃんから電話がある

こんな雨の日に赤ちゃんはフードの中できゃっきゃと喜び

ふと眼をやると若いお母さんは必死に乳母車を押してゐる

みんなスクランブルの中ですれ違ふ


霜が降り林檎が畑に紅く熟れて来る

あゝ、うれしいにつけさみしいにつけ

日の名残り

みんな順番なんだと神さまは石垣の上でつぶやく

人、むまれむまれ生まれ

人、しにしに死に

あゝ、だから

うれしいにつけ、さみしいにつけ

けふも───


倉石智證